とりあえず1~3巻まで「近世日本国民史」徳富蘇峰(時事通信社)

 時事通信社から全100巻出てるこの「近世日本国民史」。大勢の歴史研究者が分担して書いた本じゃないんだよ。徳富蘇峰がひとりで書いた本なんだ。徳富蘇峰は明治維新と明治天皇の偉業について書こうと思ったんだけど、明治維新について論ずるには、戦国時代からさかのぼって記述しなければならないと思って、こんなに長くなっちゃったそうだ。

 講談社学術文庫から出てるんだけど、文庫版は半分の50冊程度しか刊行されてない。徳川吉宗のあたりまで文庫で読んでたんだけど、抜けてるところが多いから、これじゃ読破したことにはならんなと思って、時事通信社版で読み直すことにした。図書館様にはお世話になります。

 この本読んで最初に思ったのは、今まで好きだった歴史小説より全然面白いということ。歴史小説が好きなひとはこの本手に取って、パラパラ読んでみたほうがいいですよ。

 読み直すのもめんどくさいなと思いながら、織田信長篇(1~3巻)を読みかえしたら、やっぱり面白かったのだった。戦国時代は面白い。名家は滅び、どこの馬の骨かわからん連中がのし上がり、百姓土民は武装して荒稼ぎして、新興宗教は各地で蜂起して、既成宗教はすっかり腐敗堕落して、有徳の名僧も破戒坊主と一緒に女や財宝とともに焼き殺され、鉄砲みたいな新兵器や農業土木などの技術革新に乗り遅れた国は競争に負け併合されていく。虫けらみたいにひとが殺され、上は将軍から下は百姓まで明日の自分が生きているか死んでいるかけっしてわからない時代なのだ。逆に言えば、今日の将軍が明日は没落して流浪しているかもしれないし、今日村を追われ流浪している百姓が明日は将軍になってるかもしれない世の中なのだ。下剋上の世とは日本史上最もチャンスにあふれ、最も過酷で残虐な時代なのだ。ぼくが戦国時代に行ったら三日と生きてられないだろう。本で読むには血沸き肉躍る面白さなんだけど。

近世日本国民史 織田信長(一) 織田氏時代 上 (講談社学術文庫)