酒と女と革命と。映画「カルロス」オリヴィエ・アサイヤス(監督)

 国際的テロリスト「カルロス」の半生を描いた映画。3部作合わせて5時間40分ほどの大作です。いくらわたしがヒマ人とはいえ、こんな長い映画を観たのは、何故かといいますと、無料で観れたからです。amazonプライムビデオで、プライム会員は無料で観れるんです。なんか面白いのないかなあと、最初のとこだけ、ちょっとだけ観てみようと思って、結局最後まで観ちゃいました。面白いですが、観る人を選ぶかもしれません。カルロスが関わったテロ事件について知ってる人なら、あの事件にはこんな経緯があったのかー、などと感慨をもよおしたりするかもしれません。リアルタイムにニュースで見てた年配の方は、昔を思い出して懐かしく感じるかも。

 5時間40分退屈させない迫力があると思うけど、ハラハラドキドキサスペンスや派手なアクションはなく、話は淡々と流れていきます。共産主義とか世界同時革命とか、いまだに信じている方か、現役のテロリストもしくはテロリスト志望の方じゃない限り、主人公に感情移入することはないでしょう。共感できない主人公の栄枯盛衰を長々と描いて飽きさせないのだから、優れた作品なんだと思います。

 観ていて、キャー嫌だなーと思ったのは、カルロスが、気軽にテロをしちゃうんですね。手榴弾一つ二つポケットに入れて、ちょっと行ってくるぞみたいな感じでさっと出かけて、無造作に通りに投げ込んで爆発させちゃう。なにかあるとすぐ爆発させちゃう。犯行を伝えるテレビ映像はほんとのニュース映像だそうで、それが絵空事じゃないんだぞというリアリズムと、多数の人が傷つき死ぬことに対する嫌悪感をあたえています。

 なんでカルロスがテロリストになったのか、映画ではその動機は描かれていません。ウィキペディアで調べてみたら、彼の父親は裕福な弁護士で熱心な共産主義者なのだそうです。三人いる息子に、レーニンの名をとって、イリイチ、ウラジーミル、レーニンと名付けたそうですから、よっぽどレーニンに傾倒してたんでしょうね。ちなみにカルロスの本名は、イリイチ・ラミレス・サンチェスです。14歳で学生共産党に入党し、イギリス留学を経て、ソ連はモスクワにあるパトリス・ルムンバ民族友好大学に入学します。同じくウィキペディアによると、パトリス・ルムンバ民族友好大学というのは、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカから留学生を受け入れて、共産主義を教えるための大学だそうで、カルロスはここで特別破壊工作を学んだそうです。若い頃から、革命家としての、テロリストとしての英才教育をうけたわけですね。

 カルロスも仲間たちもよく酒を飲んで煙草を吸います。いつ死ぬかわからない刹那的な生活ですから、今日が最期だと思って、常に快楽に陶酔していなければならないのかもしれません。カルロスのそばには常に愛人がいます。革命家には同志の愛人が付き物です。隠れ家を提供したり、武器を保管したり、共に武器を持って戦ったり。うらやましいほど、カルロスは女にもてます。次から次へと彼のために尽くす女性があらわれます。エネルギッシュなラテン系の色男だからなのか、女は危険な男に惹かれるのか、左翼の女の子には国際的革命家は憧れの的なのか。ちなみに映画に出てくるカルロスの愛人はみんな美人ばかりです。女優さんだから美人なのは当たり前ですけど。実際はどうなんでしょうね。

 カルロスはその時々、彼を必要とするいろんな国の後ろ盾でテロを実行しますが、やがて、どこの国からも必要とされなくなり、アフリカのスーダンで潜伏しているところを、逮捕され、フランスに引き渡されます。彼はその半生で、ひたすらテロを繰り返します。大きなインパクトを世界中にあたえますが、それでなにも世界が変わるわけではありません。テロの目的も、支援してくれる国のために働いて組織や生活を維持するためだけになっていきます。そして、やがては支援してくれる国家から捨てられて、別の、保護をあたえてくれる国家のためにテロを行うのです。国際情勢の移り変わりで、敵が味方になったり、味方が敵になったり、利用されたり捨てられたり、職業的テロリストの栄光と末路は、諸行無常を感じさせます。この映画は、国際的テロリズムの世界を、方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」みたいな無常観をもって描いています。

 このブログを書くために、あらためてカルロスについてちょこっと調べて一番驚いたのは、まだ生きてるんですね、カルロス。フランスの刑務所で。もうとっくに過去の人だと思ってたんですが。あんなに体に悪い生活してたのに。いつ誰に殺されても不思議じゃない、むしろ殺されないほうが不思議な人生なのに。世の中、どんな危険な橋を渡り歩いていても死なないで、天寿を全うする人がいるもんなんですね。あと、ウィキペディアによると、面会に来た弁護士と獄中結婚したそうなんですが、どんな状況でも常に女にもてるんですねえ。

カルロス 第1部 野望篇 (字幕版)
カルロス 第2部 栄光篇 (字幕版)
カルロス 第3部 完結篇 (字幕版)
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